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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9042号 判決

原告(甲事件)(乙、丙事件被告) 高山物産株式会社

右代表者代表取締役 崔在敬

被告(甲事件)(乙事件原告) 株式会社橋梁コンサルタント

右代表者代表取締役 住友彰

右訴訟代理人弁護士 鶴田晃三

被告(甲事件)(乙事件被告) 谷村康二

被告(甲事件)(乙事件被告、丙事件原告) 国

右代表者法務大臣 福田一

右指定代理人検事 押切瞳

〈ほか三名〉

主文

一  甲事件について

(一)  原告高山物産株式会社と被告谷村康二との間において、東京法務局(昭和四九年一二月二四日受付)昭和四九年度金第一三七九二一号供託金額六九九万八〇〇〇円について、同原告が還付請求権を有することを確認する。

(二)  同原告のその余の請求をいずれも棄却する。

二  乙事件について

原告株式会社橋梁コンサルタントと被告高山物産株式会社、同谷村康二及び同国との間において、東京法務局(昭和四九年一二月二四日受付)昭和四九年度金第一三七九二一号供託金額六九九万八〇〇〇円のうち、金二一八万六五〇一円について、同原告が還付請求権を有することを確認する。

三  丙事件について

原告国と被告高山物産株式会社との間において、東京法務局(昭和四九年一二月二四日受付)昭和四九年度金第一三七九二一号供託金額六九九万八〇〇〇円のうち、金四八一万一四九九円について、矢重設計測量株式会社が還付請求権を有することを確認する。

四  訴訟費用は、甲事件については、原告高山物産株式会社と被告谷村康二との間においては、同原告に生じた費用の三分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、同原告とその余の被告らとの間においては、全部同原告の負担とし、乙事件については、被告高山物産株式会社、同谷村康二及び同国の負担とし、丙事件については、反訴被告高山物産株式会社の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲事件について)

一  原告高山物産株式会社

1 原告と被告ら三名との間において、東京法務局(昭和四九年一二月二四日受付)昭和四九年度金第一三七九二一号供託金額六九九万八〇〇〇円について、原告が還付請求権を有することを確認する。

2 訴訟費用は被告ら三名の負担とする。

二  被告株式会社橋梁コンサルタント、同谷村康二及び同国

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(乙事件について)

一  原告株式会社橋梁コンサルタント

1 主文二と同旨

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告高山物産株式会社、同谷村康二及び同国

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(丙事件について)

一  原告国

1 主文三と同旨。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(甲事件について)

一  原告高山物産株式会社(以下「原告高山物産」という)の請求原因

1 矢重設計測量株式会社(以下「矢重設計」という)は日本道路公団(以下「道路公団」という)との間において、矢重設計が請負人、道路公団が注文主となって、左記のとおり、設計請負契約及びその追加変更契約(以下、右両契約を一括して「本件請負契約」という)を締結した。

(一)(1) 契約締結日時 昭和四九年六月二八日

(2) 作業内容 関越自動車道中尾第一橋ほか一橋基本及び詳細設計(設計図書の作成作業)

(3) 請負代金 九二〇万円

(4) 作業期間 昭和四九年六月二九日から同年一〇月六日までに完成する。

(二)(1) 追加変更契約締結日時 同年一〇月三日

(2) 追加作業内容 前記設計の一部追加

(3) 追加請負代金 金五五万八〇〇〇円(したがって、請負代金の合計は金九七五万八〇〇〇円である。)

(4) 作業期間 (一)に同じ、

2(一) 原告は、昭和四九年一〇月七日、矢重設計から本件請負代金債権の一部、金額六九九万八〇〇〇円を譲受けた(以下「本件債権譲渡」という)。

(二) 矢重設計は道路公団に対し、同年一一月一三日到達の内容証明郵便で右債権譲渡の事実を通知した。

3 道路公団は、同年一二月二四日、東京法務局(同日受付)昭和四九年度金第一三七九二一号をもって、債権者の確知不能であることを原因にして、原告及び被告ら三名ほか一名を被供託者とし、本件請負代金の一部、金六九九万八〇〇〇円を供託したが(以下「本件供託」又は「本件供託金」という)、被告らはいずれも、本件供託金について、原告が還付請求権を有することを争う。

4 よって、原告は被告らとの間において、本件供託金全額について、原告が還付請求権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する被告株式会社橋梁コンサルタント(以下「被告橋コン」という)、同谷村康二(以下「被告谷村」という)及び同国の認否

(被告橋コン)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は不知、2(二)の事実は認める。

3  同3の事実は認める。

(被告谷村)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)、(二)の事実は不知。

3  同3の事実は認める。

(被告国)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は不知、2(二)のうち、矢重設計が債権譲渡の通知をしたとの事実は否認するが、その余の事実は認める。

3  同3の事実は認める。

三 被告ら三名の抗弁

(被告橋コン)

1  (請求原因1に対し)

(一)(1) 被告橋コンは、昭和四九年六月二八日、道路公団との間で、本件請負契約について、請負人の矢重設計が同契約所定の作業期間内又は同期間経過後相当の期間内に本件請負作業を完成することができないときには、注文主道路公団の請求により、請負人に代って自ら同請負作業を完成させることを保証する旨を約した(以下「本件完成保証契約」という)。

(2) 矢重設計と道路公団との間の本件請負契約には、被告橋コンが右完成保証契約に基づく保証義務を履行し、矢重設計に代り、自ら本件請負作業を完成させたときは、矢重設計において請負代金債権を失い、被告橋コンがこれを取得するとの解除条件付権利とする旨の定めがあった。

(3) 矢重設計は同年一一月一三日ころ倒産して本件請負作業をすることができなくなったため、被告橋コンは、同月一八日、道路公団から工事完成保証義務の履行を請求され、右請求に基づき、矢重設計に代り、自ら本件請負作業を続行し、同年一二月一四日、同作業全部を完成させた。

よって、矢重設計の本件請負代金は、右解除条件の成就により遡及的に消滅したものである。

(二) 仮に矢重設計の右請負代金債権が消滅しないとしても、被告橋コンは、前述のとおり、道路公団より右完成保証義務の履行を請求され、昭和四九年一一月一九日から同年一二月一四日までの間、矢重設計に代り、自ら本件請負作業を完成させたものであり、同期間の請負代金は、金二一八万六五〇一円以上をもって相当とするから、この請負代金債権は被告橋コンに帰属し、矢重設計の有する本件請負代金債権額は、本件請負代金総額から、右被告橋コンの分及びすでに道路公団より矢重設計に対し支払済みの金二七六万円を差引いた残金四八一万一四九九円を限度とするものである。

2  (同2(一)に対し)

(一) 本件請負契約には、本件請負代金債権につき譲渡禁止の特約がついていたところ、原告高山物産は、矢重設計から本件債権譲渡を受けた際、右特約の存在を知っており、仮にそれを知らなかったとしても、道路公団の締結する請負契約には、右のような債権譲渡禁止の特約が定められているのは公知の事実で、本件においても、矢重設計に対し右事実を調査、確認しさえすれば容易にそれを知ることができたのに、金融業者である原告高山物産がその調査、確認をしなかったものである以上、右特約の存在を知らなかったことにつき重大な過失があったから、本件債権譲渡は無効である。

(二) 仮に右事実が認められないとしても、前記1(一)において主張したとおり、被告橋コンは、本件債権譲渡後に道路公団より完成保証人の義務履行を請求されたものであり、それにもかかわらず、本件債権譲渡を有効とするときは、取引の安全は守られるにしても、矢重設計の被告橋コンに対する背信行為を是認することになり、完成保証人である被告橋コンの地位を甚しくおびやかすことになるものであるから、右債権譲渡の有効であることを前提とする原告高山物産の本訴請求は権利の濫用といわなければならない。

(被告谷村)

1  被告谷村は、矢重設計から、本件請負代金債権のうち、金三〇〇万円を譲り受けたもので、右事実は、矢重設計より、昭和四九年一一月一四日到達の内容証明郵便で道路公団に対し、通知をした。したがって、同被告は、本件供託金について、右金額相当分の還付請求権を有する。

2  原告高山物産は、昭和五〇年三月一〇日、矢重設計に対して有していた一切の債権の弁済として、訴外和晃の代表者である大石一成から金八〇〇万円の支払を受けたので、矢重設計に対する債権はすべて消滅した。

(被告国)

1  (請求原因2(1)に対し)

本件債権譲渡は、原告高山物産が矢重設計に対し、昭和四九年一〇月三日に貸付けた金五〇〇万円(ただし、利息は日歩五〇銭の約定で、金七五万円の利息が天引された)と同月七日に貸付けた金二〇〇万円(ただし、利息は日歩五〇銭の約定で、金二六万円の利息が天引された)の貸金債権担保の目的でなされたものであるところ、矢重設計は、同債権譲渡の後、同月三一日、第一回目の貸付金について手形(額面額五〇〇万円)決済の方法によりこれを支払い、また、同年一一月一日、右第二回目の貸付金について小切手(額面金額二〇〇万円)決済の方法によりこれも支払ったので、原告高山物産に譲渡されていた本件請負代金債権は、右同日限り、被担保債権の消滅により矢重設計に当然復帰した。

2  (請求原因2(一)に対し)

被告橋コンの抗弁2(一)のとおり

四 抗弁に対する原告高山物産の認否

1  被告橋コンの抗弁1(一)、(二)の事実は否認する。同2(一)のうち、債権譲渡禁止の特約の存在については不知、その余の事実は否認する。同2(二)の事実は否認する。

2  被告谷村の抗弁1の事実は不知。同2の事実は否認する。

3  被告国の抗弁1のうち、本件債権譲渡が貸金債権担保の目的でされたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件債権譲渡の時点における被担保債権総額は金一六〇〇万円に上った。同2については、被告橋コンの抗弁2(一)に対する認否のとおり。

(乙事件について)

一  原告橋コンの請求原因

1 甲事件請求原因1のとおり

2 甲事件被告橋コンの抗弁1(一)(1)ないし(3)、(二)のとおり

3 甲事件請求原因3のとおり

4 よって、原告橋コンは被告らとの間において、本件供託金のうち、少くとも、金二一八万六五〇一円について還付請求権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

(被告高山物産)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実については、甲事件被告橋コンの抗弁1(一)、(二)に対する認否のとおり

3  同3の事実は認める。

(被告国)

1  請求原因1の事実については、甲事件請求原因1に対する認否のとおり

2  同2のうち、(一)(1)の事実は認める、(2)の事実は争う、(3)の事実は不知、(二)の事実は争う。

3  同3の事実については、甲事件請求原因3に対する認否のとおり

三 被告高山物産の抗弁

甲事件請求原因2(一)、(二)のとおり

四 抗弁に対する原告橋コンの認否

甲事件請求原因2(一)、(二)に対する被告橋コンの認否のとおり

五 原告橋コンの再抗弁

甲事件被告橋コンの抗弁2(一)、(二)のとおり

六 再抗弁に対する被告高山物産の認否

甲事件被告橋コンの抗弁2(一)、(二)に対する認否のとおり

(丙事件について)

一  反訴原告国の請求原因

1 甲事件請求原因1のとおり

2 反訴原告国(所轄庁東京都労働局失業保険部)は、矢重設計が道路公団に対して有する本件請負代金債権について、昭和四九年一一月二一日、当時矢重設計が滞納していた昭和四九年度労働保険料等金一八三万〇八三四円を徴収するため、国税徴収法第六二条に基づき、矢重設計の有する右請負代金債権のうち、金六九九万八〇〇〇円を差押え、同日、債権差押通知書を道路公団に対し送達し、また、反訴原告国(所轄庁雪谷税務署)は、同年一二月一六日、当時矢重設計が滞納していた昭和四九年度源泉所得税等金九七三万一二九六円を徴収するため、右同法条に基づき、矢重設計の有する前記請負代金債権のうち、金六九九万八〇〇〇円を差押え、同日、債権差押通知書を道路公団に対し送達するとともに、昭和五〇年二月二六日、国税徴収法第八二条に基づき、先行執行機関である前記東京都労働局失業保険部徴収第二課長に対し、交付要求をした。

3 甲事件請求原因3のとおり

4 よって、反訴原告国は、反訴被告高山物産との間において、本件供託金のうち、少くとも金四八一万一四九九円の還付請求権が矢重設計に帰属していることの確認を求める。

二  請求原因に対する反訴被告高山物産の認否

請求原因事実はすべて認める。

三  反訴被告高山物産の抗弁

甲事件請求原因2(一)、(二)のとおり

四  抗弁に対する反訴原告国の認否

甲事件請求原因2(一)、(二)に対する被告国の認否のとおり

五  反訴原告国の再抗弁

甲事件被告国の抗弁のとおり

六  再抗弁に対する反訴被告高山物産の認否

甲事件被告国の抗弁に対する認否のとおり

第三証拠《省略》

理由

第一甲事件について

一  (原告高山物産の請求原因に対する判断)

1  原告と被告橋コンとの間において、請求原因1、2(二)及び同3の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、請求原因2(一)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

2  原告と被告谷村との間において、請求原因1、3の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、同2(一)、(二)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

3  原告と被告国との間において、請求原因1、同2(二)のうち、債権譲渡の通知が原告主張の日時に道路公団に到達した事実及び同3の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると同2(一)、右以外の(二)の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

二  (被告らの抗弁に対する判断)

1  被告橋コンの抗弁2(一)について(同被告の抗弁1(一)、(二)については、しばらく措く)

(一) まず、《証拠省略》によると、矢重設計と道路公団間の本件請負契約には、特約として、同契約によって生ずる権利を第三者に譲渡することはできない旨が定められ、本件請負代金債権については譲渡禁止の特約が結ばれていた事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

(二) 次に、《証拠省略》によると、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(1)  原告高山物産は金融業者で、矢重設計が同原告に対し、本件債権譲渡をするに至った原因は、同原告より昭和四九年一〇月三日に金五〇〇万円を、同月七日に金二〇〇万円を借受けた借入金担保のためであり、同原告と矢重設計との取引は右三日の取引がはじめてのものであったところ、原告高山物産の従業員は、右取引に先立ち、同月二日、信用調査のため、矢重設計の事務所を訪ねて営業状況などの調査をし、その際、すでに作業の進行中であった本件請負契約の契約書(乙第二、三号証)を閲読したほか、矢重設計からそのコピー(写し)を貰い受けた。

(2) のみならず、矢重設計の代表取締役である高橋琢己は、同月七日、前記のとおり第二回目の取引として金二〇〇万円を借受けた際、原告高山物産の事務所にまで右借入金の受取りに赴いたが、その時、同原告代表取締役の崔在敬から、もし弁済期に前記各貸付金の返済ができないときには本件請負代金を矢重設計に代って、代理受領することができるかどうかを尋ねられ、本件請負代金債権は道路公団との契約により譲渡が禁止されている旨を返答した。

それゆえ、原告高山物産は、本件請負代金債権が譲渡を禁止されたものであることを知っていたものであって、矢重設計と同原告間の本件債権譲渡は無効というべきである。

2  被告谷村の抗弁1、2について

(一) まず、抗弁1の事実は、仮にこれを認めることができるとしても、被告谷村の主張によれば、同被告と矢重設計間の債権譲渡の通知が道路公団に到達した日時は昭和四九年一一月一四日であって、前記認定の原告高山物産と矢重設計間の債権譲渡の通知が到達した日時より遅れるものであるから、被告谷村は自己の右債権譲受をもって同原告に対抗することができないといわなければならない。

(二) 次に、抗弁2の事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

それゆえ、被告谷村の抗弁はいずれも失当として排斥を免れない。

3  被告国の抗弁2について

右主張は被告橋コンの抗弁2(一)と同様であるから、前示のとおり理由がある。

三  したがって、原告高山物産は、本件供託金について、被告谷村との間においてはこれが還付請求権を有するものということができるけれども、被告橋コン及び同国との間においては還付請求権を有するものということはできない。

第二乙事件について

一  (原告橋コンの請求原因に対する判断)

1(一)  原告橋コンと被告高山物産との間において、請求原因1、3の事実は当事者間に争いがない。

(二) 《証拠省略》によると、同2のうち甲事件被告橋コンの抗弁1(一)(1)及び(3)にあたる事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

(三) そこで、請求原因2のうち甲事件被告橋コンの抗弁1(一)(2)及び(二)にあたる部分について検討する。

《証拠省略》によると、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(1) 原告橋コンは、前示のとおり昭和四九年六月二八日、道路公団との間で、本件完成保証契約を締結したが、原告橋コンが同保証契約を締結したのは請負人である矢重設計の委託に基づくもので、しかも、厳格に言えば、原告橋コンは、道路公団と矢重設計間の本件請負契約に、完成保証人として加わり、契約書(乙第二、三号証)には右三名が連署をし、本件完成保証契約は右三者間の契約として締結されたものであった。

(2) そして、道路公団、矢重設計及び原告橋コンの三者は、道路公団より完成保証義務の履行請求がなされた場合の完成保証人たる原告橋コンの地位ないし立場について、完成保証人は前示の譲渡禁止の特約にかかわらず、本件請負契約に基づき矢重設計が道路公団に対して有する権利及び義務を承継するものとする、ただし、矢重設計に対する求償権の行使を妨げない旨定めた(乙第二号証の第二四条第二項)。しかし、同契約書中には、原告橋コンが本件完成保証義務を履行したときには、矢重設計の請負代金が遡及的に消滅するかどうか、原告橋コンの権利義務の承継が重畳的なものか交替的なものかについて、明確な定めはない。

(3) 原告橋コンは、前示道路公団からの完成保証義務の履行請求に従い、道路公団より義務期間の延長を得たうえ、矢重設計に代って自ら残存の本件請負作業(設計図書の作成作業)を行い、同年一二月これを完成させたが、原告橋コンが矢重設計より作業を引継いだ時までにすでに矢重設計の方で施行完了していた本件請負作業の出来高は全体の八四・七パーセント(請負代金額に換算すると金八二六万三六八三円相当)未完成高は残りの一五・三パーセント(右同金一四九万四三一七円相当)で、右割合は、同年一二月二日、道路公団が査定したものであるが、原告橋コンもこれを承認したものであった。なお、原告橋コンは、そのほか、同月一八日道路公団に対し延滞損害金一五万二一八四円及び同月二七日株式会社カントー(以下「カントー」という)に対し、トレース等の代金五四万円を支払ったが、右のうち、道路公団に対する支払は、矢重設計において所定の作業期間内に本件請負作業を完了することができないときには、遅延日数一日当り請負代金の八・二五パーセントに相当する金員を延滞損害金として支払う旨約していたので、矢重設計に代って右義務を履行したものであり、また、カントーに対する支払は、矢重設計が下請として同社にさせていた本件請負作業のトレース等の代金を矢重設計に代って支払ったものであった。

以上認定の事実によると、注文主たる道路公団より原告橋コンに対し、完成保証義務の履行請求がなされれば、原告橋コンは矢重設計の道路公団に対する権利、義務を重畳的に承継するものと解するのが相当である。このように解することによって完成保証人を附した目的を達することができるだけでなく、請負人の既存の利益を保持することができる。そして、請負人と完成保証人の履行すべき本件請負作業は完結した一箇の設計を目的とするものであるから、これに対応する請負代金債権は不可分的に両者に帰属するというべきである。したがって、原告橋コンの矢重設計が請負代金債権を喪失し、同原告がその全部を取得するとの主張は理由がないが、同原告は不可分債権として本件請負代金債権金九七五万八〇〇〇円を取得したものである。

2  原告橋コンと被告谷村との間において、同被告は請求原因事実について明らかに争わないから、すべてこれを自白したものとみなされる。

3  原告橋コンと被告国との間において、請求原因1、3の事実は当事者間に争いがなく、同2についての説示は前記1(二)、(三)のとおりである(ただし、甲事件被告橋コンの抗弁1(一)(1)にあたる事実は当事者間に争いがなく、摘示書証のうち、乙第二ないし第四号証、第五号証のうち鉛筆書き以外の部分及び第八号証の成立は争いがない。)。

二  (被告高山物産の抗弁及びこれに対する原告の再抗弁に対する判断)

被告高山物産の抗弁及びこれに対する原告橋コンの再抗弁1に対する判断は、前記第一、一1、二1(一)、(二)の説示のとおりである。

三  したがって、原告橋コンは、被告らとの間において、本件供託金のうち、金二一八万六五〇一円について還付請求権を有するものということができる。

第三丙事件について

一  (反訴原告国の請求原因に対する判断)

請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二  (反訴被告高山物産の抗弁及びこれに対する反訴原告国の再抗弁に対する判断)

反訴被告高山物産の抗弁及びこれに対する反訴原告国の再抗弁に対する判断は、前記第一、一3及び二3の説示のとおりである。

三  したがって、本件供託金のうち、少くても金四八一万一四九九円の還付請求権は矢重設計に帰属しているものということができる。

第四結論

叙上の次第であるから、甲事件について、原告高山物産の請求中、被告谷村に対する部分は正当としてこれを認容するが、被告橋コン及び同国に対する部分はいずれも失当としてこれを棄却し、乙事件について、原告橋コンの請求はこれを正当として認容し、丙事件について、反訴原告国の請求はこれを正当として認容し、訴訟費用の負担については、甲事件について民事訴訟法第八九条を、乙事件については同法第八九条、第九三条第一項本文を、丙事件については同法第八九条を、それぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 榎本克巳 榮春彦)

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